炭酸メトロノーム

映画やドラマの感想を気の向くままに自由に書き連ねてます/ネタバレアリ

海外ドラマ「ホロウ・クラウン/嘆きの王冠」リチャード二世編

2012年、ロンドンオリンピック記念として英BBCが作成したシェイクスピアの戯曲を元にしたドラマです。あったなーロンドンオリンピック、もう遠い昔のような気持ちになってしまいます。オリンピックといえば、東京オリンピックなんだけど、競技場云々で大変ですが無事開催できるのかな?できますように。

Hulu限定とのことで、毎週月曜日に一話ずつ配信されるようですね。

現在5話目まで配信されてますが、内1~3話まではリチャード二世の物語として描かれていて区切りがよいので見た感想を。

※ネタバレあります。

 

これシェイクスピアを知らないとまどろっこしいセリフ回しで引かれると思いますが、得てしてシェイクスピアの戯曲はこんなものです。

 

ドラマを舞台化というのはよく聞きますが、舞台のものをドラマにするというとなかなか難しいものがあります。場面展開や、役者さんの力量や一番大きいのは、その場の空気の体感が圧倒的に近いこと。演者が近いとそれだけ引き込まれる力があります。

でもドラマですと、画面との間に大きな隔たりがあるぶん、お芝居にのめり込めるのかといった悩みがありますが、

ホロウ・クラウンは、ただ単に、お芝居を流したテレビドラマではなく、テレビドラマならではの長所のカメラワークと映像美を活かし魅せる画面作りをしていると思います。

 

話はひとりの側近…リチャード二世の従兄が、リチャード二世にある告発をします。

ある側近が国費をちょろまかし私腹を肥やしているという事実です。

この場面だけでもわかるのですが、リチャード二世の立場というものが異質に映し出されています。

 

王様なのできらびやかなのは当然のことなのですが、今まで思い描いていた王様スタイルとは違い、リチャード二世は美少年的な優雅なほほ笑みに肌の白さ、唇は紅く、なめらかなシルクのドレスを着飾り、ちょこんと玉座に座っているんですよね。彼だけもうライティングが違っているのよw

それに言葉の一つ一つが演技かかっているのよねw

王がそんな感じだもんだから、彼の側近があいさつひとつするたび、ポエム大会が始まるの。愛する王よ~このイングランドに平和を云々みたいな、全然覚えてないから適当に書いてしまったけれど、美辞麗句ってやつを述べるわけ。

もうね一度見ただけで、王の力量はどうなのか?と訝しい点が手に取るようにわかるというwああ、あんまり政治…できないんだなって。

 

そして件の私腹を肥やしている話はどうなったのかというと、言い争いが止まらないので、じゃあ決闘で決めてねと促すのも、最終的にリチャード二世が止めに入ります。みんな肩透かし食らってしまいます。終いには二人まとめて国外退去を命ずるんですよね。国を騒がせたからという理由で。おおお、こんな決め方あるかっていう、もうね、情報の精査をしないし悪いことをしていたら神様が罰するという見解なのでよく国として形が保てるなあって。

で、ひとりは従兄なのですが、こちらは期限付きの国外退去となりました。しかし納得いきません。いままで国王のために彼らの一族は働いていたのにこの仕打ち。

 

ここからリチャード二世がいかにどう玉座から転げ落ちていくのか、ひとつひとつシェイクスピアの書いた物語に合わせ場面が動きます。

 

ただ実直に戯曲の流れを汲んでいるので、シェイクスピアを見たことがない人は、最初は面食らうかもしれないね。自分もそうでした。

ナレーションのひとつもないので、人物紹介もないわ、状況的なこともわからないので唐突に物語が始まる感じ。そこは映像だから、人物紹介しても良かったんじゃないのかな…全部が全部、戯曲に合わせなくても良かったのではと。

 

リチャード二世の父親はエドワード黒太子という、次期国王となる人でしたが、父親より先に亡くなったため、王位が息子のリチャード二世に回ってきたわけですね。

王位に就いたのは10歳のとき。この時点で、祖父、父親、兄を亡くしたがため子供なのに即位をする羽目に…昔から年端もいかない子供が即位する話はいくらでもあります。子供でも血統を重視、幼い王を擁立させ、代わりとして、摂政という形で実質政治を執る人がいるものですが、多くは親類縁者が付きます。

また逆にその親類縁者が王になれない代わり、そして政を執るためにという方が多いわね。藤原道長がこれよね。

 

まあ、リチャード二世は家族に先立だれ、しかたなくお鉢が回っていきかんじ、叔父が摂政役となります。

新政を執り、最初のころはまあまあの成果をあげますが、段々と取り巻きの意見しか聞かない状態となり、側近が困り始めたあたりのころの王様の時代から始まります。

 

たぶん彼が若くして王になった苦しみを知らないと、ただポエムを吐き散らす人物になってしまうのではないのかと思ってしまうよ。

やっぱり日本だと中世ヨーロッパは身近なものじゃないので、リチャード二世を知らない初見の夫は「何言ってもナルシストが悲しみに寄っているとしか聞こえないポエム」と手厳しかったです…

確かに取り巻きにそそのかされたり、ピンチだっていうのにキャッキャウフフ砂浜で遊んでたり、王という地位にあぐらをかき揺るがないものだ自信持っちゃったりね…

なんだこの王様?って思うでしょうが、幼いころから訳も分からず政治に狩り出され、自我が芽生える前から担ぎだされ、周りは大人に囲まれてしまい、信頼できる人を作れなかったんです。そんなとき、調子のいいことを言う人が現れたらそりゃふらっと仲良くしちゃうもんですし。

 

最後は王位を剥奪され、ロンドン塔に幽閉されます。

優雅なあの頃とは何もかもが違い、彼は彼の悲しみだけを受け入れるのですが、最後まで自分の執政で何が悪いのかすら思わず、ひたすら悲劇の王と酔いしれる具合はなかなかの美意識をお持ちの様だなと思いました。